DOCUMENT FEMALE CHAPTER 02

ドキュメント「Female」
Chapter 02「山川恵津子である理由」

 「歌謡曲」このキィワードはキャリアを重ねた歌手がよくする選択でもある。ただ、リスナーの年齢が上がったことに対応して、大人の歌という漠然としたカテゴリー作りだけに終わる場合もある。それは時として、マーケットばかりを意識した姿に映り、クリエイティビティの加齢に思われてしまう。そのためには歌詞やメロディがアレンジで、所謂「そちら側」に完全に陥らない必要があった。

 山川恵津子は「ビニールの傘」の作曲家。森川流「歌謡曲」のスタートであったことは間違いない。もう一曲ライブで先行披露していた「ユメサライ」という曲がある。この作品もやはり森川流「歌謡曲」のアプローチと言える。ただ、「ビニールの傘」が正攻法のバラードだったのに比べ、「ユメサライ」は少しギミックが強い。妖しいギターの音色や歌詞の世界にはない要素を持ち込んだり、それはいい意味で山川の策かもしれない。そしてそれは「そちら側」に完全に陥らないサウンドになるポイントになっている。

 今回半数で山川以外の作曲家の作品がある。いずれも個性の強いメロディだ。「female」を一枚のアルバムとして成立させるためには、サウンドの構築をする上で山川の力が必要だったのだろう。山川の音作りには女性らしい柔らかさやドライな質感もある。一方で松井の歌詞世界は湿度の高いところを深掘りする。一見、相反する指向性に見えて、実はいいバランスでモダンな世界観を生んでいる。恐らく森川の声と松井の詞だけでは偏りすぎていたかもしれない。「ユメサライ」に象徴されるジャンルを限定できない世界観は森川美穂の進化を促した気がする。

 「female」をトータルで聴いた時、山川恵津子がいかに新しい森川美穂の世界の枠組を作ったかがわかるだろう。「それぞれ」から「いまはこのまま」までの11曲。聞き終わったところから、また物語が始まる。それはおそらく山川恵津子の戦略である。

text:JD