DOCUMENT FEMALE CHAPTER 08

Chapter 08「漂流夜行」に見る熟成

 山川の最初のプリプロではバイオリンの構想はなかった。だが、松井の強い意向で須磨和声が呼ばれた。バイオリンは美しいが同時に強い表情が付く。山川のシンプルなボサノバのアプローチに対しては、そこが考えどころでもあった。ただ、この歌詞の世界観が持つ艶にはどうしても、もうひとつ色が欲しい。松井はそう感じていた。出来上がった作品、感情過多に歌に絡むのではなく、須磨の音色は描かれている主人公の色艶を見事に裏付けしている。

 この歌は今アルバム中でも松井五郎色の強い作品だ。男女の体温の高い情景描写は、80年代から彼が得意としたきたものである。改めて考えると、森川美穂は松井五郎の世界に相応しいアーティストだったと思う。ただ、この出逢いは早過ぎても遅過ぎてもだめだったのかもしれない。森川のアーティストとしての熟成が松井を惹きつけたと言える。この歌を聴くと、それがとてもよくわかる。

text:JD

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