ドキュメント「female」のchapter01〜03は、こちらから読むことができます。
「キャスティングマジック」
ドキュメント「female」Chapter03もキャスティングについて書かれています。
これは、きっと図星だろう。たしかに、プロデューサーの松井五郎さんから、今回のアルバムを作るにあたり、都志見隆さん作曲作品を増やしませんか? という提案をいただいた。森川さんが求めている歌謡曲がここにあるのではないかという意味であることは、言葉にせずともすぐにわかった。
すでに山川恵津子さんとの作品が3曲あり、あと2曲ほどを考え5曲入りのミニアルバムを予定していました。また、都志見さんとは、とても若い頃(30年以上前)に何回かお会いしたことがあるという程度。今回の森川のアルバム=インディーズ環境で都志見さんに何曲もお願いできるなど想定外でした。
しかし「歌謡曲」というキーワードにたいして、ぼくらの世代として考えると、まず浮かぶ名前であることは確かです。そして、そこに森川が求めている世界があるとぼくも当然感じていました。お願いできるのであれば、ぜひお願いしますと即答しました。こうやって、作品はどんどん増えていった。
このキャスティングセンスが今作品におけるプロデュースの強さだろう。「狙い」が明確にさだまったら、躊躇することなく大上段から振り下ろす。あやふやな気持ちでは外すこともある。しかし「確信」をもって振り下ろされた筆の先からは、「狙い」の結晶のような作品が生み落とされる。
ここには、考え抜かれたキャスティングから生み出される、ひとつのマジックがある。
それは、山川メロディーと、都志見メロディーといった、ある意味対極にあるといってもいいメロディーを1アルバムに対比させるように混在させて配置されている点に、その戦略が見え隠れする。
山川メロディーは、1,3,5,10,11曲めに
都志見メロディーは、その間を縫うように、2,4,6,8曲目に配置されている。
ぼくら人間は、いつも何かを比較する。あの角を曲がり、違う道を走ったら渋滞に巻き込まれず、スムーズに到着できたのに。あぁ、1本前の電車にのっていれば・・・、、、自分のことは棚に上げ、損だの、得だの、となりの芝生は青いだの・・・人の比較根性は果てがない。
しかし「比較」には、良い効果もある。
だいたい日本の良さを語るのは、海外にでて、外から日本を見たことがある人たちだ。文化、食、人情、など、ちがいを知り、当たり前の毎日の中にあるすばらしさに気づいた、日本を俯瞰して見れる人々だ。灯台下暗しということかもしれない。
キャスティングマジックは、人間の比較する本能を利用して作品の良さを際だたせ、1作品ごとの良さをより鮮明に浮かび上がらせる。作品同士は互いに「魅力」を引き立てあう結果になるという信念に基づき配置されているように感じる。
そして、さらなるアクセントとして、Chageメロディー、野上メロディーと自然にあるべきポジションに納まる。まったく、なんて贅沢なアルバムだろう。
プロデューサーの本心はどこにあったのだろう?
確信犯は、きっと口を割らない。